COLUMN
2026.07.21
vol.656「クソダサいポスターに、なぜ惹かれるのか」
柳沼 佳彦(グラフィック課)

6月末、農水省が投稿した「佃煮の日」のポスターが、ちょっとした話題になりました。
虹色グラデーションの見出し、オレンジの集中線、関西弁の吹き出し、そして紫色の顔文字。どこからどう見ても「懐かしい」の一言に尽きるデザインです。
SNSのコメント欄には「いいダサさ」「AIには出せない温かみがあって好き」「政府公式平成クソダサポスター」といった好意的な反応が並び、大きな反響を呼びました。面白いのは、この投稿がバズったあと、AIに同じ雰囲気のポスターを作らせてみる検証記事まで登場したことです。結果は「うまく再現できない」というもの。
生成AIは基本的に「整える」方向へ最適化されるため、あの独特な昭和から平成初期を思わせる空気感は、その時代を実際に知る人間だからこそ生み出せる、地味に再現困難な質感だったというわけです。
そしてもう一つ興味深いのが、農水省の担当者への取材です。なぜここまで振り切ったデザインにしたのかという問いに対し、明確な意図は語られませんでした。「AIへの対抗心があったのでは」という見方についても、「そこまでは考えていなかった」と回答。バズったあとになって初めて、「確かにそういう面もあるんだな」と自分たちでも気づいたそうです。狙ったのか、偶然だったのか。その境界線が曖昧なままなのも、いかにも今らしいエピソードだと感じました。
ちなみに、このポスターを実際に誰が制作したのかは、職員本人なのか外部のデザイナーなのかも含め、現在まで公式には明かされていません。
個人的には最初、「これは絶対プロの仕事だ」と思っていました。素人が勢いだけで作ったにしては、崩し方のバランスが妙に絶妙だったからです。整ったものや正しいものが評価されやすい時代だからこそ、あえて外したデザインが多くの「いいね」を集める。しかも、それを発信したのが堅いイメージのある霞ヶ関の一室だったというのが、なんとも痛快でした。真面目な組織ほど、たまにはこうした「振り切り」を見せてくれると、こちらまで肩の力が抜ける気がします。
私はこのデザイン、かなり好きです。
皆さんも一度検索して見に行ってみてください。このポスターはプロが作ったと思いますか。それとも、省庁の担当者が手作りしたものだと思いますか。真相はまだ明らかになっていません。
△イラストはAIを使用しています。