COLUMN
2026.10.27
vol.668「選択肢が増えるほど、人は選べなくなる」
近藤 武弘(デザイン部)

世の中は、ずいぶん便利になりました。
スマートフォンで検索すれば、商品もサービスも無数に比較できます。AIに尋ねれば、文章も画像も短時間で生み出せます。
ところが、不思議なことがあります。これほど情報が手に入り、選択肢が増えたにもかかわらず、かえって何を選べばよいのか分からなくなることがあるのです。
ネットで商品を探していたはずが、比較記事を読み、口コミを調べ、別の商品を見つけては、さらに比較する。気づけば、最初に何を買おうとしていたのかさえ曖昧になっている。
情報が足りないから迷うのではありません。情報が多すぎるから迷うのです。
これは、企業の情報発信にも通じる話です。
自社の魅力を伝えたい。だからこそ、実績も技術もサービスも、できるだけ多く紹介しようとする。しかし、伝えたいことを増やすほど、本当に伝えるべきことが埋もれてしまうとしたら、どうでしょうか。
大切なのは、情報を増やすことだけではなく、優先順位をつけることです。何を最初に伝え、何を詳しく説明し、何をあえて伝えないのか。そこに、デザインの役割があります。
デザインは、何かを付け加える仕事だと思われがちです。しかし、ときには情報を減らし、選択肢を絞り、伝える順番を変えることのほうが重要になります。
すべてを同じ熱量で伝えようとすれば、受け取る側は何が大切なのか分からなくなってしまうからです。
これから先、AIによって情報をつくることは、ますます簡単になっていくでしょう。だからこそ問われるのは、どれだけ多くの情報をつくれるかだけではありません。何を伝えるべきかを見極め、相手にとって意味のある形に整えられるかどうかです。
情報が少なかった時代には、情報を持っていることに価値がありました。
情報があふれる時代には、情報を選び、意味を与えることに価値が生まれます。
何でも伝えられる時代だからこそ、何を伝えるかが問われる。
デザインの仕事は、これからますます、その本質が試されていくのかもしれません。
△イラストはAIを使用しています。