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COLUMN

2025.12.15

vol.627「走る白鳥」

山田 芹香(フォトクリエイティブ課)

「ついこの間よりも曇り空が近く感じるのはなぜだろう。」

そう思って調べてみると、シベリア地方からの冷たい空気と、日本海の湿った空気がぶつかり合い、夏場よりも低い位置に分厚い雲ができるためだそうです。

そして冬になると、もうひとつ、シベリア地方からやってくるものがあります。渡り鳥である白鳥です。
今年の春から始めた趣味の野鳥撮影。その一環として、冬の始まりに瓢湖を訪れました。

ロシア・シベリア地方から越冬のために日本へ渡ってきた白鳥たちは、新潟市の佐潟や阿賀野市の瓢湖をはじめとする湿地に集まり、厳しい寒さの中で冬を越します。白鳥といえば、渡り鳥であり、冬の風物詩。黒と黄色の嘴に、どこか優雅なイメージ。観察を始める前の知識は、その程度のものでした。

ところが実際に目にした白鳥たちは、想像以上に生き生きとしていて、その動きは驚くほど可愛らしいものでした。嘴を羽の中に埋めて水面にぷかぷかと浮かんでいたり、片足でじっと立って休んでいたり。飛び立つ前にはぽつりぽつりと仲間が集まり、やがて群れ全体で水面を走るようにして、一斉に空へ舞い上がっていきます。

例えば、嘴を羽根に埋めるのも、片足で立つのも体温調節のため。
飛び立つ際に水面を走るのは、空へ浮かぶための助走が必要だから。
その一つひとつの行動には明確な理由があり、どれも生きるために欠かせない知恵なのだと知りました。

水中の餌を食べるために頭を水に突っ込むと、お尻がぷかりと水面に浮かび、着水するときには大きく足を広げてバランスを取ります。そうした何気ない仕草の一つひとつが、次第にとても愛おしく感じられるようになりました。

衝動的に始めた野鳥撮影でしたが、曖昧だったイメージが観察と知識によって少しずつ輪郭を持っていく過程そのものが、とても面白く感じられます。

まだ野鳥の写真としては納得のいかない点も多いですが、シャッターを切るたびに、興味はより具体的になり、知識は深まり、さらに新しい疑問へと広がっていきます。

被写体を知ろうとするほど、世界が少しずつ解像度を上げていく――
些細な疑問や興味が、こんなにも壮大に広がって繋がっていくのは不思議なものです。

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